昭和レトロなおでん屋台と、日替わり店主が作り出す「おでん学園」というコミュニティ

2020年1月12日(日)、13日(月・祝)の二日間にわたって、東京・表参道のBA-TSU ART GALLERYで開催するd365のマーケットイベント「サンロクゴ商店街」。本連載では、このイベントにご参加いただくショップやブランドの魅力を深堀りインタビュー。今回紹介するのは、三軒茶屋駅から下北沢駅方面に向かって茶沢通りを少し歩いた裏通りにあるおでん専門店「おでん学園」。店構えは昔ながらのおでん屋。しかし、同店は曜日ごとに店主が変わるちょっとイマドキなお店なのだ。そんなおでん学園で日曜日の店主を務める山口輝さんに、同店の魅力を教えてもらった。

おでんの屋台がテーブル代わり

おでん学園のドアを開けると、最初に目に入るのがおでんの屋台。この屋台は、実際に先代が三軒茶屋界隈で引いていたもので、50年以上前のものなのだとか。言われてみれば、年季の入り方がそんじょそこらの店とは桁違いなことに気付かされる。

「この建物はもともと屋台の倉庫として使われていました。最初は初代がおでんの屋台を引いて歩いていましたが、そのうち常連さんが屋台を出す前にここで飲むようになり、外に出さずにこのまま店にしたと聞いています」(山口さん)

すでに初代は他界しており、店を引き継いだ二代目がいまのオーナー。以前はオーナー夫妻が店主を務めていていたが、現在は日替わりでさまざまな経歴を持つ7人が店番を任されている。なかには大学生が店主を務める曜日もあるそうだ。

山口さん自身、もともとは店主をやるつもりではなかった。しかし、友人とともに同店を訪れて、そのアットホームな雰囲気の虜になったという。

「友人が店主と知り合いで、日曜の店主をやらないかと言われていたんです。一度見に行こうと誘われて僕も一緒に見に来たのですが、結局は友人ではなく僕が代わりにやることになったんです」

普段、山口さんはIT系の企業で営業職の仕事をしており、月曜から金曜は本業、日曜はおでん学園の店主として店に立つ。店をやることにもともと興味があり、社会人2年目でこの副業を始めた。そして、今年で店主となって2年目を迎える。

「ひとつのことをやるよりはいろんな世界を見たいと思っていたので、ハードではあるものの楽しいです。おでん学園での仕事は、仲間と飲んでいる感覚。まったく苦ではないですね。店がこれだけ狭いと、家で飲んでいるような気分になります(笑)」

そう、おでん学園はお世辞にも広いとは言えないが、だからこそコミュニケーションが生まれやすくもある。たとえば、入り口付近に置かれた冷蔵庫から飲み物をセルフで取るシステムなのも、ほかのお客さんと話しをするきっかけになりやすい。離れた場所に座った人は、冷蔵庫の近くに座った見ず知らずの人に「ビール出してもらえますか?」と声を掛けるしかないのだ。

また、おでんも各自が自由にお皿に取るスタイルなので、「大根の下に牛スジがありましたよ」といったふうに、自然と知らない人同士が話すことになる。仲間と訪れた人はもちろん、1人で来ても気軽に隣の人と話せることこそが、おでん学園の大きな魅力といえるだろう。

昔からの常連も絶賛する京風おでん

おでん学園で提供しているおでんは、いわゆる「京風おでん」。昆布ダシが効いた薄味のおでんで、これらはすべてオーナーが仕込んでいるそうだ。そこに各曜日の店主がアレンジを加えて提供している。

「オーナーには好きにやっていいと言われています。僕も夏場はトマトやとうもろこしといった夏野菜を入れてみたり、冷やしおでんを出したりしていました。冬場はおでんのベストシーズンなので、ベーシックな具材が多いですね」

筆者も実際におでんをいただいたが、昆布ダシが大根や練り物にしっかり染み込んでいて、ついビールを飲む手が止まらなくなる。もちろんビールは赤星。ビールに飽きたら各種サワーやホッピーをいただくのもおすすめだ。瓶入りのレトロなコダマサワーは、青りんご、ライム、クエン酸、バイスの4種類が揃い、ホッピーも黒と白が選べる。

もちろん、これからの寒い季節はおでんのお供にぴったりな熱燗をいただくのも忘れてはいけない。まるで昭和にタイムスリップしたようなレトロな空間だからこそ、奇をてらわないベーシックな組み合わせが恋しくなる。実際、若い人だけでなく、昔からの常連も通い続けているそうだ。

と言いながらも、山口さんが店に立つ日曜の店内に流れるBGMはハウスやテクノが中心で、そのミスマッチ感が面白い。このBGMも店主の趣味に任されており、ほかの曜日は歌謡曲やJ-POPを流したりしているそうだ。おでんとテクノ、そして昭和。このミックス具合もおでん学園の特色のひとつだといえる。

コミュニケーションの場としてのおでん屋

山口さん自身、知り合いが日替わり店長を務める飲食店に顔を出すことが多いそうだ。そういう場が好きだったからこそ、自身も日替わり店主になることは必然だったのかもしれない。

「自分で店をやるうえで、知らない人同士がコミュニケーションを取れる場であることは常に意識しています。知らない人と話すことで、新しい発見があったり、共通点を見つけて盛り上がったりするのが、このお店の醍醐味かなと。この距離感なら交流も生まれやすいですし、知らない人と話すのが苦手な人でも話しやすいと思いますよ」

三軒茶屋という立地もあり、客層は幅広い。50代、60代の地元民はもちろん、20代前半の学生や美容師なども多く訪れるそうだ。そういった世代や職種の異なる人たちがこの距離感だからこそ交流を持ちやすい。実際、筆者も取材に訪れた際、20代の社会人グループが入店してきたので、仕事を忘れて会話を楽しんだ。こうやって気軽に見ず知らずの人と関わりが持てるのは、“おでん学園マジック”が働いているはず。

「もちろん、このスタイルは好き嫌いが分かれるとは思っています。でも、それでいいんです。気に入った人は何度も足を運んでくれるし、そうじゃない人はもう来ない。……と言いながらも、リピーター率は割と高いです(笑)。食べ物はもちろん、この“場”がメインになるようなお店にしたいと思っています」

このコミュニケーションの形を残そうとして、オーナーは日替わり店主という形でおでん学園を続けているそうだ。おでん学園は、おでんがおいしいだけでなく、屋台だからこそ生まれる人と人のつながりを世代に関係なく伝えてくれる希少な存在かもしれない。

【マーケットイベント『サンロクゴ商店街』】
日時:2020年1月12日(日)10:00〜20:00
2020年1月13日(月)10:00〜18:00
場所:BA-TSU ART GALLERY(150-0011東京都渋谷区神宮前5-11-5)
入場料:無料(事前登録が必要となります。こちらよりご登録ください。)
主催:株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント