仕事の先にある「喜び」を求めて。変わらぬスタンスが導き続ける成功への道筋/森、道、市場 岩瀬貴己

「森、道、市場」は、有料のマーケットイベントという全国的に見ても稀有なスタイルを続けながらも、今や約6万3000人の来場者をカウントするビッグイベントへと成長した。しかもそのチケット料金は、入場料だけなら3日間の通しで1万円以下と、他の大型フェスと比べると驚くほどリーズナブル。そこには岩瀬さんが学生時代から実践し続けてきた「人を喜ばせたい」というマインドが大きく影響している。

必要なことだけにお金を使えば、スポンサーなんていらない!

「2011年にスタートしてから現在まで、スポンサーはほぼゼロなんですよ。もっとも、現在は会場に隣接する遊園地も借りているので、そうした、利益を出さなければいけない部分については協賛ブースを出していますが、基本的に『森、道、市場』の趣旨に合わないものはすべて断っているんです。周りからは『スポンサーを入れてお金を取りなよ』って言われることもありますが、あまり興味がないんですよね……。ややこしいのがイヤだっていうのもあるし(笑)」

2011年の初開催から9年目を迎えた現在も、「森、道、市場」はほぼ、来場者の入場料のみで運営しているという。さすがに、当初は運営側の持ち出しがあったというが、それもわずか4年のこと。会場をラグーナビーチに移して2年目の2015年からは黒字に転換。以降も入場料のみでまかなっている。

「もちろん、年々来場者が増えているので少しずつ設備を強化していく必要があって、そのために入場料は数百円ずつ値上げしているのですが、それでも入場料だけで開催できていますからね。入場料だけで運営できないのは、大勢の人を使っているからなんですよ。それに『森、道、市場』ではモノを買わないですからね。例えば、来場したことがある人なら分かると思いますが『森、道、市場』の入場ゲートって、テントが建って、手描きの看板が付いているだけなのでものすごく分かりにくい(笑)。他のイベントだとすごく豪華なゲートがあるじゃないですか? でも、ウチは必要としていないんですよ」

「いい客層」に来てもらうために規模縮小!?

3日間で約6万3000人を集客し、しかも来場者の入場料だけでほぼまかなえているのだから、イベントとしては大成功だ。となれば、今後はさらにイベントの規模拡大を考えるが、どうやら岩瀬さんの思いは違うようだ。

「2019年は日曜日の来場者数が3万人を超えてしまって、今までの設備では足りなくなってしまったんです。2万5000人くらいの想定でやっていたので、5000人の設備が足りないとさすがに不具合が出てきて……。『それなら、3万人想定でやればいいじゃない?』って思うのですが、そのために設備投資しても上手くいかないと思うんですよね」

「森、道、市場」はイベント開催の1週間くらい前から準備し、撤収にも1週間を要する。しかし、来場者を増やして設備強化するとなると、それでは時間が足りなくなり、結果、業者に依頼せざるを得なくなることは明らかだ。

「『森、道、市場』は手づくりのイベント──DIYフェスなんですよ。通常、大きなイベントは業者が入っていますが、ウチらはほとんど自分たちでやってるので、これ以上の規模になると制作会社を入れないと無理だし、結果的に今の金額では開催できなくなる。だから、今が限界。以前は1万人くらいに成長すればいいかなって軽く考えていたけど、思いっきり超えちゃいましたからね。イケイケだったからどんどん拡大していきましたけど、さすがに……もう拡大しなくていいですね(笑)」

たしかに、大きくなりすぎてしまったことが、岩瀬さんをこのような考えに至らせた要因ではある。しかし、それは「森、道、市場」を愛するがゆえの決断でもある。

「これからもずっと、いい客層の人たちに集まって欲しいんですよ。『森、道、市場』の今までのファンだけに来てもらえればいい。やっぱり、これだけ増えるとゴミを捨てたりする人も出てきますからね。『森、道、市場』は何でも用意してくれるわけじゃない。自立型なんです。お客さんが自分自身で責任を持って行動するというのを軸としてるイベント。だからこそ、毎年開催し続けられるんですよ」

何事も“喜び”がなければやる意味がない

イベントがここまで成長した秘訣は「関わっているスタッフ全員の誠実さ」だと岩瀬さんは説明したが、加えて、岩瀬さん自身がずっと持ち続けているサービス精神があるからこそ大きくなったとも言える。しかも、それは「森、道、市場」のような大型イベントだけではなく、他の仕事にもあてはまるものだ。

「好きなことを仕事にするためには、何事も一緒だと思うのですが、自分は“喜んでほしい”からやるんです。褒められたいからではなく、喜んでほしい。例えば、建物とかお店を作ったりするのも、お客さんに「カッコよくできた」「頼んでよかった」って喜んでもらうため。『森、道、市場』も来てくれるお客さんに「すごく楽しかった!」って言ってもらうためにやっているんです。そういった気持ちで取り組んでいけば、何をするにもイヤじゃなくなるはずですよ。仕事の先にあるものが喜びじゃなかったら、やる必要がないですからね。だから、高校時代のグラビアアイドルのオブジェから今まで、喜んでもらうっていうスタンスは変わらないんですよ(笑)」