最も重要なのは、コミュニティをつくる力/サラリーマン猟師 小川岳人

IT業界に身を置いた20代、趣味の狩猟をライフスキルに変えていった30代。これまでの小川さんの人生を改めて振り返ると、やはり彼のバイタリティの高さを感じずにはいられない。そもそも東日本大震災を経て、都心から郊外への移住を決めた行動力がすごい。そして小さなSNSグループの輪を、罠シェアリングという形にまで広げていったことも素晴らしい。連載3回目となった本稿では、小川さんの気づき、そして将来についての展望を紹介する。

仲間と協力するから、貫けるコンセプトがある

「たとえば、山で鹿を仕留めたとします。でも、それをどうやって担ぎ降ろすのか。仲間がいれば降ろせても、単独ではどうすることもできません。ソロハンターに憧れる人もいますが、美味しい部分だけ切り取って、結局はほとんど捨てることになっちゃうんですよ。」

その単独狩猟とは真反対のコンセプトが罠シェアリングだ。小川さんたちは協力して行動するのが大前提。加えて、小川さんは「僕らは決して捨てないんです」と話す。罠シェアリングは、肉も皮も骨も有効活用することを目指している。

「普通は、毛皮も捨ててしまいますけど、僕らは小動物の小さな毛皮でも持ち帰って丁寧に鞣すことをしています。骨については、スカルトロフィーと言うのですが、インテリアアクセサリーを作ります。手間はかかるものの獲った山の恵みを余すところなく活用するのが、罠シェアリングのスタイルなんです」

じつは午前中にスタートした取材の合間、小川さんがランチをご馳走してくれた。これが旨い! メイン料理は、シカの胃袋を丁寧に処理して、トマトで煮込んだ一品。料理の腕前が人並み外れているのか、味付けはイタリア料理のトリッパに似て、酒のツマミとしても最高だ。罠シェアリングは、地元の人気イタリアンレストランと組み、ジビエ肉をおいしく食べるイベントも開催している。

「シカの胃袋は、ほとんどの人が捨てます。やっぱり前処理がホントに大変ですから。中身を洗い流して、2回、3回と下茹でして、塩や小麦粉でしっかりと揉んで。その段階ではキッチンに独特の臭みも籠もります。それでもいただいたことに感謝をして、僕たちはなるべく捨てないことを守り抜きたい」

狩猟で観光ビジネスを。小川さんが描く未来へのビジョン

さらっと笑顔で話す小川さんだが、その裏にはさまざまな苦労があったに違いない。

「そうですね。なんで罠シェアリングをやっているのかという話に戻ってしまいますが、もっとライトに狩猟を楽しむスタイルがあってもいい。そういう人たちに向けているのが、罠シェアリングです。狩猟免許を取らずとも、狩猟体験はシェアできます。法律の範囲内で、できることを叶えていけばいい」

今回の取材を通じて、この時の小川さんの言葉には、ひと際、説得力があった。嘘がないのはもちろんだが、罠シェアリングの発想そのものが自然発生したものだからこそ、過剰な負荷がかかっていないのだろう。各自、スキなら続ければいいし、休んだっていい。根底に流れているのは、他人の気持ちをそっと思いやるような、緩やかなつながりだ。

「自分の性分かもしれないです。考えてみれば、祖父は地域活動に没頭した人でした。『そんな金んならんことばしよって』というのが祖母の口癖。そして母もPTAの会長とか、保護者会の役員を買って出ていました。そんな血筋からなのか、僕もサッカーでキャプテンをやったり、社会人になってからもフットサルサークルの運営側にまわったり。会場の手配、他人の試合の審判、メンバーのスケジュール管理、そういうことが苦にならないんです」

ちなみに、現在の本業と副業との収入比率をうかがうと「今現在は、まだ10パーセント程度。でも、将来的にはフィフティ・フィフティにまで持っていきたいです」。小川さんは、現代の日本の狩猟現場を俯瞰して、罠シェアリングのようなシステム以外にこれから持続可能な狩猟スタイルはないのではないか、と考えている。狩猟免許の取得者は増えても、狩猟活動に入る手前でマッチングできていない現状は前回の記事で説明した通りだ。

「檻罠を設置して獲れたらシェアする。都会の皆さんを狩猟活動へと誘うには、この方法が一番。IoT技術をさらに有効利用するためにも、収入源はしっかり確保して、規模拡大を目指したいです」

IT業界出身者の小川さんらしい視点である。IoT技術とは、株式会社フォレストシーがすでに提供しているオリワナシステムのこと。山中に設置した罠が作動したらメールで知らせてくれる無人遠隔監視用システムだ。これを使えば、毎日の見回り活動が大幅に軽減できる。次世代技術は、すでにあきる野市の山中でも活用されはじめている。

一方で、ワークライフバランスという視点では、小川さんはどのように考えているのだろう?

「自分が好きなことで稼げて、暮らしていけるのがベスト。自分にも将来の展望もありますよ。例えば、いま狩猟業界では外国人に対して狩猟を許可しようという動きが出始めています。日本が観光立国へと舵を切る中で、外国人の皆さんに狩りを楽しんでもらって、お金を落としてもらう。その時には、チャンスがあるのかなと思っています」

聞いて驚いたが、狩猟活動において日本ほど恵まれた環境はないそうだ。狩猟の本場、ヨーロッパでは山全体が徹底的に管理され、区画ごとにフェンスで仕切られている。シーズンともなると、川に魚を放流するごとくイノシシを放して、それがいなくなったらハイ、終わり。

「日本だけなんです。いったい何頭いるのかも把握されてなくて、獣害被害まで起こっているのは。アメリカやカナダも同じく、徹底管理されているので、狩りをすると1頭幾らでお金もかかります。日本では狩猟登録税さえ払えば、何頭獲ってもお金はかかりません。こんな話を外国の猟師にすると、お、いいな、日本で狩猟やりたいってなる。狩猟パラダイスなんです」

なるほど、小川さんの夢は広がっている。いや彼の行動力ならば、“夢”ではなさそうだ。