見回り代行から、狩猟体験の奥深さを伝える役割に/ サラリーマン猟師 小川岳人

東日本大震災をきっかけに、都会の生活を捨て、郊外への移住を決意した小川岳人さん。前回の記事では、その小川さんが吉祥寺から東京都あきる野市へと引っ越しをした経緯や、趣味の登山の延長線上で狩猟に興味を持ち始め、実際に免許を取って狩猟生活をスタートさせるまでの道のりを紹介した。連載第2回目となる本稿では、小川さんが主催する“罠シェアリング“の活動を掘り下げていく。

集合場所は、JR武蔵五日市駅改札にて

サラリーマン猟師、小川岳人さんが主催する「罠シェアリング」とは、ズバリ、都会暮らしの人たちに向けた狩猟活動とのマッチングにある。例えば、ホームページにはこう記されている。

――――――――――――――――――――――――――――――――
罠シェアリングとは“負担なく”“気楽に”“楽しく”狩猟をするための方法です。人類最初の生業であった狩猟は、現代においては、多くの規制や現代人的ライフスタイルにおける縛りごとがある事から、続けることが難しい活動であるのが実情です。罠シェアリングでは、旧来の陋習とも思える「狩猟・猟師はこうあるべき」といった概念を一新し、誰もが気軽に狩猟を体感できる機会を創出します。

実施内容
・罠の設置
・見回り
・餌の選定
・トレイルカメラの閲覧
・解体作業
・止め刺しの見学
・アニマルトラッキンング

参加メリット
・全く準備いらずで狩猟体験ができる
・狩猟免許の必要なし
・猟友会に入る必要なし
・罠狩猟者登録の必要なし
・アニマルトラッキング指導が受けられる
・解体指導が受けられる
・ヤマドリ、キジ、カモなど銃猟のおすそ分けや毛皮、骨などの入手も可能
・LIFE DESIGN VILLAGEが主催するジビエイベントに会員割引で参加できる

(以下、略)
――――――――――――――――――――――――――――――――

ナイフなど、狩猟活動に必要な道具はすべてレンタル。ジビエ肉を自宅まで持ち帰るためのパック類も小川さんら主催者側が用意する。また仮に活動当日の獲物がなくても、シーズンひとり最低1キログラム以上のジビエ肉を提供。なるほど、電車移動を前提とした都会暮らしの狩猟ビギナーを想定して、彼らのモチベーションを阻害する要因をきれいに取り除いている。

今から5年前。はじまりはSNSのやり取りで繋がった狩猟初心者8名による小さなグループ活動にすぎなかった。都心に住んでいると、仕掛けた罠に獲物がかかっているかどうか、毎日確認することができない……その問題に、猟場近くに住む小川さんが「代わりに見回りします」と、手を挙げた。罠を皆んなで購入・設置して、見回りは地元の小川さんが担当、獲物は皆んなで分け合う。“罠シェアリング”という名称は、共有の発想をダイレクトに示したものである。銃猟であれば猟に出る日だけが狩猟日となるが、罠猟はそうはいかない。むしろ罠を仕掛けた後の毎日の見回りが大事な活動となる。

「法律で決まっているわけではないんですが、掛かった獲物を3日も4日もほっといたら、その獲物は死んじゃいますよね。それは猟をする者にとってはモラル違反。獲物を極力苦痛なく、速やかに仕留めてあげることが理想です。もちろん肉質にもかかわってきます。死んで数日間放置した肉なんて、もう臭くて食べられないですから」

狩猟シーズンは秋からはじまり、冬を超えて翌年の春まで。直近2018年秋〜2019春の正会員のメンバーは24名(ほかに準会員設定もあり、スタッフを含めるとコミュニティ規模は60人)にまで拡大している。「実際に狩猟現場に一緒に入って、獲物を解体し、そのジビエ肉を分け合うという条件では、このメンバーが現体制の最大数」と、小川さん。
(ちなみに、罠シェアリングでは現在2019-2020シーズンの参加者を募集している。)

一方で、罠シェアリングがこうしてビジネスモデルとして成立するに至った背景には、小川さんの副業に対する能動的な気持ちがあった。

「日本の経済的な展望を考えると、これからは給与所得者であっても安定って多分ないんだろうなと思っていて。収入源を複数持つべきだと考えるようになっていったんです。その手段が、得意分野だったら、なお良し。自分の場合は、狩猟を通じて収入を得られるようになりたいと考えていました」

罠シェアリングの活動内容とは?

ここからは、小川さんの1日のスケジュールを追ってみたい。まずはイベント日に該当しない、日常生活から。

「朝は普通に会社に行くんですけど、時間がある日は鉄砲を持って山に入ります。この辺には、山鳥がいるんですよ」

と言って小川さんが指差したのが、とても長く美しい尾羽。いかにも野鳥という趣で、山で見かけたら思わず見惚れてしまうであろう、そんな姿が想像できる。しかも「お肉もとてもおいしい」そうだ。ちなみに砲撃が許されるのは、日の出後の時間帯と法律で定められている。したがって山に入るのは、日の出の時刻に合わせる形だ。

「大体は獲れません(笑)。捕獲高は、1シーズンで3羽とか4羽なんで。獲れなかったら、設置した罠を見回りしますが、こちらもまずかかってない。狩猟現場の日常なんて、そんなもんです(笑)」

罠シェアリングが仕掛けるのは、括り罠と箱罠で34箇所。ちなみに括り罠とは、イノシシや鹿の足が入ると、縄がキュッと縛られる仕掛けだ。34箇所といっても、1地点に絨毯爆撃のように仕掛けることもあれば、仕掛ける地点を増やしてチャンスをうかがう場合もある。ただし、仕掛ける地点を増やしすぎると、見回りに苦労する。

「昨年、導入しはじめたのが、IoTを利用した罠作動通知システムです。罠が作動すると、メールで知らせてくれるのですが、こういうものも駆使しながら。地点で言うと、マックスで10地点を、スタッフで分担しています。僕ひとりで担当するのは、2〜3地点かな」

9時に出社して、仕事終わりが20時。そして夜の見回りをする。朝の見回りを抜いた日は、夜には必ずフォローするという。20時からはじめて見回りが終了するまで1〜2時間。自宅に戻るのは22時を過ぎる。

「ポイント間の距離が離れていると、移動時間がかかりますが、昨シーズンは最終的にひとつに絞ったんです。しかもその絞った先は、自宅付近のお寺の裏手でした。その時は、もっと短時間で見回りは済みました」

獲物の行動パターンを読むのも、猟師の仕事。猟師は地面に残った足跡や、草木の折れ曲がり具合で、獣がいつ通ったかを読み解いていく。そして獣が直近に行動していると感じたら、その場所に罠を仕掛ける。無理してまで、山奥に仕掛ける必要はない。

一方で、罠シェアリングのアクティビティがある日のスケジュールは、まったく異なる。

「以前、漫画家さんが罠シェアリングの体験を作品にしてくれたんですけど、その日の場合は、朝7時30分にJR武蔵五日市駅に集合して。猟場の整備から体験してもらって……」

本来の集合時間は午前10時だったが、希望者を募り、その前段階の作業から仕事を見てもらったそうだ。台風の影響による倒木をチェーンソーで切り、獣道をつなぐ作業である。獣の動線に障害があれば、それを取り除くのも猟師の仕事のひとつ。大事な狩猟ポイントが、障害によって変化してしまってはもったいない。獣道を見つけることは、やはり猟師たちにとっても至難の技なのだ。しかも猟師にとって、狩猟ポイントの情報は決して教え合うものではなく、仮に同じ猟友会に所属するメンバー同士であっても、絶好ポイントはひた隠す。狩猟ポイントとは、旧来そういうものらしい。

午前10時にもう一度、JR武蔵五日市駅に集合した他メンバーと合流して、今度は檜原村某所にあるわさび棚に移動。事前に用意した獲物(この日はイタチ科の穴熊)は前処理済み。山のなかで獲物を捌く体験を参加者全員と共有して、薪で炊いたご飯と採れたての天然わさびで食した。脂が乗った肉質には、わさびが合う。新鮮で上質なジビエ肉の料理方法を研究し、その具体例をメンバーに提案するのも小川さんのアイデアだ。

ところで、あきる野市にはLIFE DESIGN VILLAGEという名称でユニークな活動をしている人たちがいる。自然とともにある暮らしや働き方を体感してもらうべく、さまざまなイベントを企画している集団だ。彼らのコンセプトは「大人のヨリミチ提案」。罠シェアリングもLIFE DESIGN VILLAGEとコラボレーションして、地元レストランでのジビエ料理イベントを実現した。というよりもLIFE DESIGN VILLAGEのプロジェクトのひとつとして、罠シェアリングがあると言ったほうが、話が早いのかもしれない。LIFE DESIGN VILLAGEを率いているのはアースデイ東京事務局長や湘南エリアに特化した仕事マッチングサービス「湘南WorK.」を手掛ける河野竜二さん。
罠シェアリングの活動拠点は、独立起業し、様々な地域事業に携わり、その一つが罠シェアリングスタッフという杉さんのお宅。 杉さんは小川さんの先輩移住者であり、移住後に保有することとなった古民家を罠シェアリングの活動拠点兼地域コミュニティの場として開放している。ここに自由な発想を持つ若者が集まり、互いに知恵を出し合って新たな試みが実行されている背景がある。彼らは、この立地だからこそもっともっとできることがあると言う。罠シェアリングもLIFE DESIGN VILLAGEとともに、都会人と自然との接点をオンラインを利用した今どきのスタイルで発信し続けている。

次回は、罠シェアリングのこれからの展望を小川さんにうかがっていく。