必要なのは“誠実さ” 「森、道、市場」を作り上げる人とのつながりとバランス感覚/森、道、市場 岩瀬貴己

マーケットを主体とした有料イベントでありながら、初開催から9回目の今年2019年には約6万3000人もの来場者数を記録した「森、道、市場」。今や全国的に知られる大規模イベントに成長し、すでに1年後の開催に向けての準備が着々と進んでいるという。それを中心となって支えるのが、岩瀬さん以下、「森、道、市場」を愛するスタッフの存在である。

1年のうち5割は「森、道、市場」

「開催期間以外も、年間のスケジュールは『森、道、市場』の業務でほぼ埋まっていますね。しかも、イベントが終わってからも2カ月くらいはスケジュールを取られちゃうくらい忙しいんです。というのも、事務処理や経理はすべて自分ひとりでやっているので……」

第3回の「森、道、市場」が開催された2013年。岩瀬さんはそれまで勤めていた工務店を退職し、自身の会社「(株)ついたち意匠考案室」を設立した。工務店勤務時代に培った建築設計施工に加え、イベントの企画や広告など、「法人登記の際に、これからやりそうな仕事内容は全部入れた」というが、いざスタートしてみると、1年の大部分を「森、道、市場」に関する業務が占めるようになっていた。

「独立した当初は、個人宅のリフォームや店舗の改装などもたくさん手掛けていましたが、今はかなり件数を減らしています。時間がないというのが理由なのですが、やはり『森、道、市場』ってイベントの規模としては大きいので、1回あたりの制作期間に1年半くらいを要するんですよ。イベントが終わった瞬間にはもう、次の年にその場所を借りられるかどうかの交渉を行っているくらい。9月から10月にはチケットの販売を開始して、1月から5月にかけては準備がいちばん忙しくなる時期。結果、半年以上は『森、道、市場』で時間が取られてしまうので、建築に関する業務はかなり減らしていますね」

人とのつながりによって獲得した、建築のノウハウが活きる仕事

岩瀬さんは現在、1年の約半分を「森、道、市場」の制作に費やし、合間に知人が経営する店舗の内装設計施工やイベントの什器作成を行っている。それらは工務店勤務時代に培ったノウハウが活きているが「工務店の仕事とは種類が全く異なる」とも。しかし、イベントや「森、道、市場」を運営したことによって人とのつながりができ、結果として工務店時代にはなかったような仕事に結びついたのだという。

「この『at the table est 2015』という店はオーナーが妻なのですが、ここも自分で内装を手掛けたんです。このあたりの地域で街づくりをするから協力してほしいと依頼されたことがきっかけですが、やはりこれも人とのつながりによって実現したこと。ほかにもタイミングさえ合えばいろいろとやりたいのですが、イベントもあるので長期の仕事はちょっと難しくなってしまいましたね。お客さんにも迷惑をかけてしまうし……」

長く続けるためにも、ストレスは溜めない生き方に

そしてメインとなる「森、道、市場」の業務だが、忙しさがピークの時期もそうでないときも、やることは毎日異なるという。その主な仕事内容は出店者やスタッフ、行政、民間企業との“交渉”だ。

「『森、道、市場』のスタッフは全国から集まってくれているのですが、出店に関しては各地域にリーダーがいるので、基本的な出店者とのやりとりはそのリーダーたちに任せています。だから自分は彼らとやりとりすればいいのですが、例えば『何人で行くから宿泊場所を紹介してほしい』といったオーダーは、すべて自分が対応するようにしています。2019年は約500店舗が出店しましたが、お店の店主は“社長”じゃないですか? そういった人たちとは、やはり自分が直接やりとりするべきだと思うんです。あとで『言った、言わない』の問題にならないように。それは心がけるようにしています」

もっとも、「森、道、市場」は出店者だけで2000人以上もいるので、ひとりですべてに対応するわけにはいかない。そこで、岩瀬さんが8割がた交渉をまとめたのち、各スタッフにパスするパターンを作っている。

「いよいよ準備が忙しくなってくる3月になると動き出すチームがいるんです。彼らは普段、本業があったりフリーだったりするのですが、彼らが加わるとだいぶ人は増えますね。でも、メインで1年中動いているのは5〜6人程度。みんな責任感を持っているので、自分もそのメンバーと話すだけでいいんです。例えば、普通の会社のイベント企画だと、決定権を持つ人にいろいろと説明しなければいけないけれど『森、道、市場』の運営にはそれがない。お互いに決定権を持つ者同士が話すので、早いし、効率もいい。お互いに課題点をクリアしていけばいいだけなんです。だから、必要なのは“誠実さ”。これに尽きますね」

信頼できる仲間を獲得して年々「森、道、市場」を拡大させてきた岩瀬さんの1日は、朝8時からスタートする。

「建築の現場がなければ、朝に請求書を処理しながら9時にネットバンクが開くのを待っている感じ。とにかく毎日のように請求書が届くので、1日でも請求書や経理の処理を怠ると大変な量になっちゃうんですよ。あとはメールとかFacebookメッセンジャーでひたすら関係者との打ち合わせですね。夜? 19時にはお酒飲んでご飯食べてますよ。その間にもメール等のやりとりは続きますが、ストレスを溜めないようにしてるので(笑)。長く続けるためにも、物事がイヤになっちゃいけないですからね」