世界で誰もやっていなくて、自分にしかできないこと。それがカセットテープ専門店だった/waltz 角田太郎

東京・中目黒にある「waltz」は、2015年に誕生した世界初のカセットテープ専門店。誰もが過去の遺物だと思っていたオールドメディアに着目したのは、「Amazon」に14年も在籍した角田太郎さん。「スキ」から生まれた個性的なビジネスが、イケると確信できたのは、3社を渡り歩いた会社員時代の「スキル」が大きかった。

カセットテープは現在進行形のポップカルチャー

waltzには、洋楽を中心とした中古のカセットテープ、有名ミュージシャンから新人まで続々とリリースされている最新のカセットテープ、さらにはレコード、音楽関連の古本、中古VHS、中古カセットデッキがすっきりと並べられている。女性がひとりでも入れるように考えられた店内は、シンプルでスマート。ファッションブランド「GUCCI」が魅力的なスポットを紹介する「グッチプレイス」にも選ばれるなど、いまや世界中から注目を集めるほどの人気を誇る。

「オープン当初から“懐かしいものを売る”という意識はありませんでした。いまやカセットテープは、“現在進行形のポップカルチャー”なんです」

waltzのお客さんは、世代も性別も国籍もバラバラ。高校生が制服姿で来店することもあるという。彼ら彼女らにとっては、テープをガチャっと入れて、再生ボタンをガチンと押すと、ぐるぐる回りながら音が出る機械は最高にクールなのだ。

「自分はカセットテープに慣れ親しんだ世代ですけれど、2000年代に入って久しぶりに聴いたときにビックリしたんです。当時、カセットは録音するためのメディアでしたが、オリジナルの音源が収録されて売られていたものを、当時の高級ラジカセで再生すると驚くほどいい音が出るんです」

音楽好きが高じて、音楽販売ビジネスの世界に

幼少期から現在に至るまで、ずっと音楽漬けだった角田さん。小学生の頃は深夜ラジオの「全米トップ40」や「全英トップ20」のチャートをメモり、エアチェック(番組で流れる楽曲を録音)をしていた。中学時代にレンタルショップへ通うようになってからは、ラジオで流れない下位チャートの曲もフォロー。Wラジカセを購入してからは、同級生のために膨大なストックからダビングをしてあげたりもしていた。その熱い思いは、80年代の音楽文化を牽引してきた、今はなきレコードショップ「WAVE」への入社で一度結実する。

「憧れの会社に入社したのですが、まもなくバブル崩壊で業績が急降下したんです。とはいえ、渋谷店に配属されたことはラッキーでした。地方店舗とは違い、週末になると満員電車のように混雑していて売り上げも良かった。そこで、売り場の作り方や販売オペレーションといった、実務的な部分が経験できたんです」

しかし、時代の波には逆らえず約4年で退社。転職先は、ゲームソフトの販売がメインだった「明響社」。同社は新規事業としてCD販売のノウハウを持った人材を募集していた。

「その会社は当時では珍しく、ひとり1台パソコンを与えてくれるなど先進的な職場環境でした。毎日スーツで出かけ、損益計算書やバランスシート、経営的な資料の読み方、作り方なども学んだんです。そこで初めて“ビジネスマン”になれた気がしますし、売り場では学べない数字を俯瞰して見る経験があったからこそ、その後のキャリアに繋がったのだと思います」

しかし、明響社も業績が悪化していき、約4年後には転職活動をすることになる。そのタイミングでCDやDVD販売の人材を探していたのが、2000年に日本参入したばかりのベンチャー企業「Amazon」だった。当時はアメリカのITバブルが弾けたばかり。さらに、Eコマースでありながら在庫を大量に抱えるアマゾンのビジネスモデルは異端であり、否定的に考えられていた時代でもあった。

「みんなから止められましたよ。でも、これまで音楽販売という道でキャリアを形成しながらも、業界全体が下り坂。インターネットで売ってダメならもうダメだろうと、自分にとっては唯一の選択肢だったんです」

「UP or OUT(昇進するか出て行くか)」と言われる厳しい外資の世界で、14年間も勤め上げた有能な元社員として注目されている角田さん。しかし、そもそもは、どうにかして音楽ビジネスに関わっていたいという思いがあったからだった。

世界で誰もやっていない、自分にしかできないこと

「レコードを買うのが趣味だったので、出張先でもショップは回っていて。最初は何の気なしに、店の隅っこに置かれたカセットテープを買ってたんですよ。小さいし、安いし、荷物が重くならないのが良かった。でも、突き詰めるとトコトン行くタイプなので、気づいたら膨大な量になっていたんです(笑)。その頃には海外のコレクターとのパイプもできて、トレードも頻繁にしていました」

Amazonで稼いだお金の多くを音楽につぎ込んだといえるほどのコレクター。しかし、自分がそれをビジネスにするとはまったく考えていなかったという。

「40代半ばで考えたんです。“仕事では結果を出してきたけど、自分の人生このままでいいのかな”って。そこに部署移動のタイミングも重なって、“世界で誰もやっていない、自分にしかできないことをやりたい!”と強く思うようになったんです。そんなある日、カセットテープを実店舗で売るというアイデアがストンと落ちてきたんです」

ネットショッピングを誰よりも知り尽くしている男が、実店舗でモノを売る。その発想もまた、“世界で誰もやっていなくて、自分にしかできない”ことだからであった。WAVEや明響社で培った経験を生かせるという点も大きかった。次回は、過去の職務経験を生かしながら、どのような毎日を送っているのかに迫る。

【waltz】
住所:東京都目黒区中目黒4-15-5
営業時間:13:00~20:00
定休日:月曜
公式サイト:http://waltz-store.co.jp/