キャンパー垂涎! ざぁ~ッスの「ヘキサテーブル」誕生秘話/TheArth 大熊規文

六角形の独特な形ながら、使いやすさとデザイン性で、瞬く間にキャンプテーブルの一角として人気を博す通称“ヘキサテーブル”。その生みの親である大熊規文さんは、本業である店舗内装の木工製品を手がける木材加工業者としても異端の存在だった。枠に囚われない考え方は、ものづくりを自由にしていた。

六本木ヒルズのキラキラ感に憧れた

九州・福岡で多感な10代を過ごした大熊さん。いずれ木工家具の製造業者となるのだが、福岡時代にその予兆はなかった。

「ノミ、かんなといった、家具を作るための刃物は一切使えませんでした。というのも、実家が家具の卸業だったんですが、父親が『家具なんてこれからは儲からないからやめろ』と」

そんな父親の言葉もあり、家業とは関わらないままに20代も半ばに差し掛かった頃、東京にいた知り合いから、「六本木ヒルズっていうのができたから、遊びにおいでよ」と言われ東京へ行ったことがキッカケとなり、人生は大きく動き出す。

「六本木ヒルズを見て、スッゲーなー!と。お店なんかもキラキラしてて。その時に思ったんですよ、『俺もいつかこんなキラキラした商店建築やってやる!』って」

紆余曲折を経て、2005年、29歳の時に大熊さんは福岡を出る。東京ではマンションの建具や店舗の内装業など数社で経験を積み、35歳の時に店舗などの什器を製作する木工屋として独立。会社名は苗字の“大熊”をもじって、株式会社ビッグベアーとした。

工作機械の導入が、業界での立ち位置を作った

大熊さんは独立に際して、ある思いを抱いていたという。

「若い頃からずっと修行してきたわけじゃないので、家具作りの概念が全くないんですよ。それが幸いして、在来工法に対して、なんでそんなに面倒で手間のかかる作り方しなきゃいけないんだろうってずっと思ってました。こうやれば楽じゃない?って。でも、そんなの人間の手じゃできないって言われるんです。じゃあ機械を使えばいいと思って、独立した時からロボットを使ってました」

NCと呼ばれる3軸で木材を削り出す工作機械を導入したことで、大熊さんにはいくつもの強みが生まれた。まずは、家具の精度。熟練工といえども10mクラスの家具を作れば2~3㎜の狂いはどうしても出てしまうというが、NCならば10m、20mの家具を作っても狂いが出ないという。

納期も早い。仮に手作りの職人が1週間かけて作るものがあれば、2~3日で作ってしまうという。さらに価格面においても人件費がかからないことから、低く抑えられるのだ。

「駆け込み寺みたいな仕事がいっぱい来ました。それこそ、レジカウンターを発注するのを忘れてたとか、バックヤードの机が必要になったとか。品質、適正価格、納期において、かなり柔軟に対応できますからね」

当時、同業で工作機械を導入していた企業も少なかったことから、業界の異端児扱いされながらもビッグベアーは大きく成長を遂げる。

数千万円の工作機械を導入する本当の理由

独立して2年が経った頃、大熊さんはさらなる強みを手に入れることになる。仕事でヨーロッパを訪問することになり、せっかくならばとイタリア南部にある木工団地へ視察に行った。

「イタリアではNC使うのは当たり前なんです。むしろ持ってないところがないほど。しかも3軸加工じゃなくて、5軸制御の機械ばかり。『あれっ、なんで軸が傾いてるの!』って驚きました。軸が斜めにも動くということは、木材を斜めにも加工できちゃうんですよ。もうこれがあれば無敵だと」

帰国後、すぐに商社を通じて5軸加工機を買っていた。そのモデルは国内での初号機だったという。数千万円の投資だったが、それだけの価値を感じていた。事実、仕事の流れが変わったという。

「それまで国産のNC加工機をフル稼働しても、しょっちゅう明け方まで仕事していました。それが、5軸を入れたら売上も下がらず、残業はゼロで、僕は土日にキャンプに行きっぱなしでも大丈夫になりました」

さらに2019年の初頭、大熊さんはドイツ製の最新式5軸加工機を導入している。ビッグベアーの工場では、巨大な5軸加工機が滑るような動きで正確に、素早く、複雑な形に木材を削り出している。大熊さんが産業機械を積極的に導入するのは、もちろん仕事のためでもあるが、話を伺っていると、どうも趣味的な要素もあるようなのだ。

「実はすっごい機械ヲタクなんです。昔からメカ好きで、ラジコンやったり、バイクいじったり。高校の時のバイトが車の解体屋で、免許もないのに事故車のハチロクを買って、自分でレストアしてましたからね。それで、今はモノを作る機械にものすごく萌えるんです。だから、自分で使えるお金ができても、欲しいのはランボルギーニじゃなかったんですよ。NC買っちゃうんですよね」

ヘキサテーブルがついに生み出された

本業である木材加工業の成長に欠かせなかった5軸加工機は、ここ数年キャンプ界隈を賑わせている六角形のテーブル、通称「ヘキサテーブル」を生むことになる。

「もともとキャンプは好きでよく行ってたんですけど、焚き火用のちょうどいいテーブルってなかったんですよ。四角いテーブルは四隅が遠いし、円卓っぽくみんなで囲めるテーブルがいいなと。でも、丸い物を1枚の板から切り出すと、無駄が多いんですよ。もっと直線的な設計で作ろうって、木工屋の発想ですね。テーブルの足は不整地でも安定する3本にしたいってこだわりがあったので、それに合う形となると天板6枚を組み合わせた六角形だなって。特に六角形が好きなわけではないんですよ(笑)」

木材加工の作業自体はお手の物だが、最初から現在のような高い精度がありながら、デザイン性に優れ、使い勝手のいいテーブルができたわけではない。試行錯誤を重ねて試作機を作っていった。大熊さんは、その試作機をキャンプ業界ではよく知られたインスタグラマーに無料で配っていったのだ。

「『よかったら使ってみてください』って。作っては配りってことを繰り返していると、だんだんとキャンプ業界がざわざわし始めるんですよ。『あの人がインスタにあげてる、あの六角形のテーブルはなんだ?』って。それで、さらにざわついた時に、『はい、整いました!』とばかりに完成型をリリースしたわけです。それが2015年のことで、初号機を作ってから半年ほど後のことです」

こうして世に出たヘキサテーブルは、その後、圧倒的な人気でキャンプ業界に迎え入れられる。また、その販売方法には大熊さんらしい“戦略”もある。現在は、「TheArth」としてブランド化したヘキサテーブルが、どのように広がっていったのか。次回、そのあたりを中心に紹介したい。