真摯な土づくり、野菜づくり、そして蜂蜜/Ome Farm 太田太

「料理が苦手で!」という人にこそ、おいしさと栄養をそのまま味わえる「Ome Farm」の野菜を食べてほしいと心底思う。なんせ“生でも(そしてドレッシングがなくても)”おいしいのだから、むやみに手を加える必要もないのだ。……と乱暴な言い方をしたけれども、太田さんたちの野菜は“星付きレストラン”のシェフたちも愛用するほど。そんな野菜づくりについて、日々の仕事についてお話ししてもらった。

自然の力と知恵を最大限生かしての野菜づくり

農薬や化学肥料をいっさい使わずに野菜を育てること。これが「Ome Farm」の真髄だ。つまり有機農業であり、有機とは「自然のもの」という意味で、オーガニックという言葉も同様だ。だが、日本が定めた有機農業(有機JAS規格)ではなんと使用可能な農薬がある。……となんとも不可思議なのが日本の農業だが、それはさておき、太田さんたちは本当に農薬や化学肥料をいっさい使っていない。

農薬を使わないためには、健常な土が必要で。だから化学肥料ではなく有機堆肥を自分たちでつくり、遺伝子組み換え種やハイブリッドな種は使わず、固定種を蒔いている。そう、すべてがケミカルフリーなのだ。

「ニューヨークでは毎週隔日ペースでファーマーズマーケットが開かれて、そこには鮮度のいい、おいしい野菜が並んでいました。大都市であるにも関わらず、安全な農業が身近で当たり前で。そのときの記憶が、僕らの“東京生まれ、無農薬育ちの野菜”というコンセプトにつながっています」

そのためには「土づくり」が肝要となった。それには植物性の原料を発酵・完熟させた堆肥が不可欠だ。その場所を案内してもらうと、こんもりと小さな“山”がいくつかあり、それぞれ段階を経て、微生物によって発酵され堆肥になっていくという。順番に解説してもらうと……

「ここは家庭でいうところの三角コーナーですね。これは昨日捨てたイタリアンパセリ、こっちの花もまだ食べられるものですけれど、ここに放っています。反対側には種を採ったノラボウナを。ほかにアサリやしじみ、エビの殻も使いますし。そうそう、先日シェフの御宅で蟹鍋パーティをしたので、蟹の甲羅も入っています。はい、こっちには栗のイガを……」

というように、さまざまなものを余すところなく使い、循環させ、土への恵みを誕生させている。

「『ちゃんと土にお還りください』という感じです。檜原村のお豆腐屋さんのおからや、条件が許せば同じ青梅の小澤酒造さんの酒粕もちょっと加えてみたいと思っています」

圧倒的な鮮度がおいしさにつながる

自家発酵させた堆肥を使った畑は、青梅の小曾木地区、今井地区、富岡地区の現在3カ所だ。それぞれ土質と気象環境が異なるため栽培する野菜を変えている。なかでも、案内してくださった小曾木の土がいいと評判だそう。

「蛍が出るところは水がキレイといいますが、ここの水は非常にすばらしいんです。あるシェフが訪れて“神の土だ”と言ったくらい! 水がキレイなところには蛇も出ますから気をつけて(笑)」

そう、シェフである。「Ome Farm」の野菜を使うシェフらには、いわゆる星付き店も多く、こう説明されると、一般消費者である我々は「なら、私も食べたい!」となるわけで。でも、よいレストランで頻繁にお食事するバジェットがなく……という向きには、青山ファーマーズマーケットをはじめ、新宿タカシマヤ、無印良品、ミナ ペルホネン コール、エラヴァIなどで購入可能だ。太田さんらと直接対面したいなら、青山ファーマーズマーケットに足を運ぶといいだろう。

「毎週土曜日、よほどの暑い日でない限り出店しています。オファーを受けた当初は『出ません』と決めていました。が、ミシュランの星付き店あるいは同等のお店が10店以上、うちの野菜を『旨い』と言ってくれたのをきっかけに出店することにしました」

“ガチでやっている”だけに、他店に比べて、売上高が半端ではない。

「本気度が違いますから。売上を6桁から落とした日はほぼありませんね。僕は野菜を売るときに、バッグや洋服を売るように説明をするんです。『いかに、あなたをハッピーにするか』ということをどう伝えるか。ファッションの販売はメッセンジャーです。食べればわかるということは、いい服と同じこと。一度食べてくだされば、また翌週も来てくださる」

産地である青梅から、販売地の青山まではクルマで1時間ちょっとという環境も、おいしさに大きく関わっている。野菜の命は鮮度であることを知っているからか、朝10時の開店時には食のプロたちや料理通の男性が多いという。太田さん自身もグルマンで料理好きなだけに、野菜の調理法もお手の物。

「たとえばカーボロネロ。豚肩やモモ肉、鶏モモと煮込むとすごく旨いんですが、ここで“クタクタになるまで煮込んで、ひと晩寝かしたところがめちゃくちゃ旨い!”と話して。さらに “冷やした白ワインとの相性がたまらない”と日常の実体験を伝えると、味の想像がついてグッと心をつかむようです。料理は楽しいし、誰もができること、特別じゃない。それをわかってくれるお客さんばかりです」

食べること=楽しくておいしい、そして日常だ。当たり前のことを当たり前に、おいしいものをおいしくだからこそ、太田さんの言葉と「Ome Farm」の野菜は人々の心に響くのだ。

自然の恵みをそのまま味わえる蜂蜜も

サスティナブルな農業を目指し、実践している「Ome Farm」。太田さんの野菜づくりに欠かせいないものに「養蜂」がある。これまた非常にナチュラルな野菜づくりのためで、人工的ではない野菜の受粉にはミツバチが最適。せっせとおしべからめしべへと花粉を運ぶだけでなく、おいしい蜂蜜をももたらしてくれる。

「ほら、そこのコリアンダーの花にもミツバチがいますよ。羽音が暴走族のようにスゴイんです(笑)。コリアンダー独特の香りを持つ、フルーティな蜂蜜ができるんです。冬のマーケットでは野菜よりも、蜂蜜の売り上げのほうが良い日もあります」

加熱処理を行わず、豊かな香りとやさしい甘さの蜂蜜は、新たなファンをつかんでいる。そのままいただいてもいいが、ヨーグルトと合わせたり、調理に使ったりと、あれこれ想像力をかきたてる。また、蜂蜜と野菜の関係を教えてもらえば、生き物は循環しているのだなぁ、ということが自ずと想像がつくものだ。

堆肥をつくり、土をつくり、野菜を育て、そして養蜂もする。すべては「おいしくって安心、安全」のため。言われるがままの、従来型の農業とは異なるアプローチ、そして、小さい経済圏のお金を積み重ねているからこその自信があるからこそ、「農業は超クリエイティブなもの。ジャンルに縛られている以上、そこから抜け出すことはできないけれど、料理の素材としての可能性はまだまだ未知数ですから」と言い切れるのだろう。

そしてまた、「たとえ東京が焼け野原になっても自給自足できる僕らは、なんとかなるんじゃなるのでは」とも。小さくても強い商売、それも好きなことを邁進した結果だ。そう生きていくための秘訣を、次回(最終回)に、太田さんに訊ねていこう。