「好き」を軸に働くためには、「嫌い」を知るのがヒントになるかもしれない/VUILD 秋吉浩気

情熱のある働き方を実現するには、「何を成し遂げたい」というビジョンが大事なのは言うまでもない。しかし、自分がしたいことを見つけるのは、決して簡単なことではない。建築テック系ベンチャー「VUILD(ヴィルド)」の代表取締役・秋吉浩気さんが語る仕事観は、こうした悩みを持つ人にとって、ひとつの突破口になるかもしれない。

難しく考えずに身の回りのものから投資するという考え方

英会話を学ぶ、プログラミングを学ぶ、資格を取るなど、世の中には能動的な努力を強いられる自己投資は多い。しかし、ビジネスセンスを育むという文脈においては、自己投資は苦行に限らない。若くして「VUILD」を立ち上げた秋吉さんは、いままで投資してきたものについてこう語る。

「見たいものを見る。読みたいものを読む。ファッションも好きなので、着たいものを着る。身の回りにある自分のやりたいことをしてきました。そういう意味では、たくさん投資してきましたね。いつか何かで返ってくるだろうと――」

直接的にビジネスに関係ないと思える「好き」のカケラも、どこかでビジネスのエッセンスになりうる。「自己投資しなくては」と思って行動するよりも、飾らない「好き」から生まれたモチベーションの方が高いエネルギーを秘めている。簡単なことだが、意外と忘れがちだ。

一方で、自己投資において意識的に考えるべきこともあるという。秋吉さんが意識するのは、長期的な視点だ。いかにも経営者らしい。

「例えば、本ならば、古書を読んで得たものは10年後も活きます。長期的に見てどうやって投資として返ってくるか、それを考えていることが多いですね。そういえば、服も同じ店でしか買いませんし、10代からずっと着ているモノが多い。物持ちがいいし、あまり流行に左右されないタイプです」

そして、こうした「投資」に対する決断力は、身の回りの小さな自己投資の積み重ねで育まれるものだ。スタートアップにおいて、ここぞという投資を軽やかにできるのは非常に重要である。

「普通の企業だったら、どれだけ偉い人でも必要な投資をするためにたくさんの”承認”を得なくてはいけないでしょう。でも、VUILDでは6000万円の投資を即決できる。これはスタートアップならではのことだと思います」

「お金」よりも「ビジョン」を重要視する

投資が重要とはいえ、スタートアップの場合、事業に必要な潤沢な「元手」を個人単位で用意できるのは非常に稀だろう。だからこそ、出資者との関係性は重要になる。こうした視点を踏まえ、何よりも重要になるのが「ビジョン」だ。

「出資者から言われていたのは、お金を考えずに”やりたいこと”や”実現したいこと”を大事にしろということ。お金を理由にしてはいけないんです。出資者が期待しているのはビッグビジョン。彼らは、”お前は何をやりたいのか”ということを考えてくれていて、それに見合うコストを出しています」

もちろんビジョンを最重要視するだけで、日々の儲けを考えないのでは企業は潰れてしまう。大事なのは、目的に向かうベクトルに営利活動をいかに寄せていくか。

「何もせずにいたら資金がつきてしまうので、ShopBotを販売するような代理店的な業務もVUILDには必要でした。しかし、ただ稼ぐだけの仕事はしないと決めていて、目先の利益がビジョンにきちんとマッチするようにしています」

働く上で重要なのは、その人の想い

では、そのビジョンはどう見つけたらよいのだろうか。「~がしたい」という情熱があるのは、もはやそれ自体が才能だ。多くの人にとって、自分がしたいことを見つけるのは、何よりも難しいと思う。その点、秋吉さんの考え方は斬新かもしれない。

「働く上で”何がしたい”を考えるのは難しいので、”何が好きか”や”何がしたくないか”という気持ちが結構重要だと思っています。極論を言えば、やりたくないことはしなくていいんです。そのときには、同僚や家族に助けてもらえばいい」

こうした考えは、経営者として社員をまとめる中で見出してきたものだ。自分が我慢しないからこそ、一緒に働く仲間にも我慢させない。その方が健全だと考える。

「新卒の人に多いですが、自分を客観しせずに”できる”と思ってしまう事例は危険だと感じます。それは不健全だし、結果的に不幸な状況が起きてしまう。”俺はこれはできません”と誠実に言えるほうが良いんです。同じように、わがままな理想形を話すことも大事。言い訳なしに、どうあったらいいのかというところを語っておかないといけません。実行しなくても有言が大事なんです。何がしたくない、何がしたいという部分を隠さずに話すようにしたい」

とはいえ、組織としての踏ん張りどころも必要

もちろん、こうした思考回路だけではイノベーションは生まれづらいし、組織が動かないのも自明だ。秋吉さんは、”やりたくないこと”も時に大事にするのが重要だと考えている。

「やりたいかやりたくないかではなくて、たまにやってみようと思うのも重要です。例えば、普段はしない料理をしてみるとか――。”やりたくない”を押し通すだけではただの社会不適合者になってしまいますから。その都度選択して、何を行うのか自分で決めるのが一番大事です」

そして、もちろんVUILDのような個を尊重する組織であっても、働く上では個人の意思が通じないタイミングも存在する。そういった場面でのマネジメントでは、秋吉さんも苦労しているのは変わらないようだ。

「プロジェクトの納期直前に踏ん張らなきゃいけない部分もあります。RPGのようにHPとMPがあるとしたら、最後はMPが切れて魔法が使えない。そこでどうやってテンションを上げるかというのは、スタートアップでも普通の企業でも同じですよ」

これから働き方を変える人へ

最後に、これから自身の情熱で仕事を選びたい人にアドバイスがあるかを秋吉さんに聞いてみた。すると、スタートアップの経営者らしい、説得力のある答えが返ってきた。

「転職する人にありがちなのは、凝り固まった思考を持ってしまっていることではないでしょうか。気づいたら新しい職場で、杓子定規なことを言い出してしまう。経営者からしたら、それをどれだけ忘れさせるかが重要だと思っています」

もちろん、それまでの経験は大きな武器だ。だからこそ、まるで呪いのように、無意識を支配する過去の習慣に気付きにくい。これは、転職者ならではの諸刃の剣なのかもしれない。

「好きなことで働くために新しい業界へ移るのだったら、いままで経験した”当たり前”は忘れていた方が清々しいし、凝り固まっている方が無駄だぞって思います。その方が背景も変わってくるでしょうし、そういう覚悟というかマインドセットがある人ならば、ちゃんと結果を残せるはずです」

飾らない「好き」に投資し、「ビジョン」を大事にする。そして、思い込みを捨て、過去の成功体験に固執しない――。働き方を見直す時代だからこそ、これらの指針や労働哲学は、各々咀嚼する価値がありそうだ。