ザ・ノース・フェイスの世界的コレクターが語る、コレクションの流儀/the Apartment 大橋高歩

どんな仕事であれ、10年続ける、そしてさらに続いていくことは困難を極める。その荒波を越えるには、何かしらの指針が必要だ。どの企業にも社訓が飾ってあるのはそのためだろう。「the Apartment」にとっての指針は、ヒップホップで培った信念を曲げないという強いメンタリティーだった。

世界一”ヤバい”を目指し、あたまひとつ抜け出す

飲みの席でのトークから、期せずして古着と新品服を混ぜたショップをオープンすることになった大橋さん。10年もの長きにわたり続けてこれたのは、自分が思い描く”ヤバい”ことに猪突猛進してきたからだ。

「これまで、”そんなことをしてもお金にならない”、”損だ”、”バカげている”ということばかりやってきた気がするんです。その原動力は、単純に”ヤバい”から(笑)。僕は昔から求道者を尊敬する傾向があって、子どもの頃は空手の先生に憧れていました。その先生は、拳を石のようにカチカチにするために、いつも巻き藁を突いていて。最初はさすがに”バカじゃないか”と思いましたけど、いつ行っても巻き藁を突いているので、最終的には”この人ヤバい”、かっこいいなって。
そういう人たちの姿勢を見習って、自分はとにかくいろんな人に会いに行く。そこから生まれるぶっ飛んだアイデアで、ナシをアリに変えてみたり、普通なら無理だと思うようなことにチャレンジしていきたいと思っているんです。自分が面白いと思うことを採算度外視で突き詰められる人って、世界広しといえど意外に少ないんですよ。だから、気づくと頭ひとつ出た存在になっている。そうすると後からお金がついてきて、最終的にどうにかなる気がするんです。それがいつなのかは誰にもわからないですけど(笑)」

身の丈に合わない量のお金は逆にマイナス

「どんなジャンルでもいいから世界一を目指せ!」。自己啓発系のビジネス本に出てきそう話でもある。しかし、それが簡単ではないことも同時に理解できてしまう。何かを探求しているつもりでも、目の前の不安から逃げ出したくなるからだ。大橋さんは、その不安の一因であるお金についてはどう考えているのだろう。

「お金って、良い意味と悪い意味があると思っていて……。例えば、自分の器の量が100だったとして、そこに100のお金があったらすべて使えるわけです。それが最高の状態。一方で、100の器に200のお金があったら、逆にマイナスだと思うんです。それならば、100の器に10しかお金がないほうが恵まれている。足りない90のために、お金ではない努力をしますから。
この考え方になれたのは、ヒップホップを好きだったおかげなんです。あの文化の成り立ちって、機材の性能が足りないから、そのぶんループさせて曲にしちゃおうとか、足りない部分をアイデアで埋めて発展していった。僕らも、新品の服を集められなかったから、自前の古着も並べてお店をスタートしたり、足りないことをプラスに変えていったんです」

店を始めたとき、絶対にやめないと誓った

お店をオープンしてからの約2年間は相対的に赤字で、運転資金のためにアルバイトもしていたという大橋さん。その時期に閉店の道を選ばなかった理由もまた、自らが理想とする強い信念を貫いたからこそだった。

「クラブで遊んでいた頃、いろんな奴が周りにいました。人によってはトラブルを抱えて飛んじゃったり(音信不通になる)。そういうのが本当にイヤで……。自分にとってこの店はストリートで出会った多くの仲間に支えられてきた場所ですし、スタッフも含め、すべてが家族のように大切なんです。ここを辞めるということは、飛んじゃうことと一緒なので、店を始めたときから”俺はずっとここにいるから”、”死ぬまで辞めないから”って話をしていました」

一番大事なコレクションは売るな

あえて自己啓発本に準じれば、「勝つための秘策は、勝つまでやめないこと」と同じ話だ。さて、好きをスキルに仕事をしようとしている人の中にはコレクターもいるだろう。そんな人たちへのアドバイスを聞いた。

「主旨とは真逆の答えになってしまいますが、自分が大事にしてるコレクションは売ってはダメだと思います。コレクターなら理解できると思いますが、ひとつだけ売るくらいなら全部手放したい。0か100かなんです。スピリチュアルな話ですけど、コレクションって、”世界一好きだ”という強い思いがあるところに集まってくる。それを手放してしまったら、残るのはただのお金。お金はどんな方法でも手に入るものですからね」