車を車中泊仕様にリビルドする「バンライフビルダー」という仕事/CielBleu. 茨木一綺・美伽

根っからの手先の器用さとDIY精神、さらには自身のキャンプ好き、そこに奥様のセンスが加わって、アウトドアファニチャーブランドを成功させたシエルブルー(立ち上げまでの経緯はこちらの記事で)。しかし、現在の業務のメインはバンライフビルダーへと移行している。まだ耳馴染みのないバンライフとはどういうものなのか、また彼らはどのように仕事をしているのかを探っていく。

必要最低限な装備で旅するバンライフの世界

必要最低限のものをバンに詰め込み、車上生活をしながらノマドワーカーとして自由気ままに旅生活をする。そんなバンライフと呼ばれる新たなライフスタイルは、ラルフローレンのコンセプトデザイナーであったフォスター・ハンティントン氏をきっかけに、2012年頃から世界中へと広がった。現在、シエルブルーのメイン業務は、バンライフに欠かせないバンをカスタムする仕事だ。

「キャンピングカーは足し算なんです。コンロでも何でも、必要なものは全部くっつけようという考え方。一方、バンライフは引き算。その人にとって必要最低限のものだけを取り付ける。型にハマっていないんですよ」(ワカさん)

とは言え、日本では車上生活というスタイルはほぼ認知されていない文化。実家に住所が置けるとか特殊な仕事環境じゃない限り、社会的信用も仕事も得られないという実情がある。

「ウチのように子供が居ると学校の関係で放浪生活するわけにもいきません。ということで、僕たちが提案しているのは正確には“VANLIFE風スタイル”になるのかな。基本が車上生活ではなく、長旅の一環としての車上生活的スタイルですね」(ワカさん)

「そうなりますね。自分たちが精神上いかに快適に、何週間も旅に出られるかを考えたスタイルですね。私たちはもともとキャンパーなのでテントで寝るのも好きだし、キャンプ道具の収納スペースとベッドルームがあればいい」(アネゴさん)

現在はキャンプ関連で知り合った友人のバンをカスタム中。オーナーが気に入った車の状態が良くなかったため、エンジンも含めて取り替える必要があるとか。それらすべての作業は、埼玉県川越市にあるアメ車のカスタムショップ『MT.G』を間借りしておこなっている。シエルブルーは内装やそれに伴う電気配線などを担当し、エンジンなどの交換作業は『MT.G』がおこなう。

整備工場を間借りしながらの作業

「5年くらい前、自分の車を修理するのにリフトが必要になったんです。とはいえ、適当な整備工場に持って行くのはイヤなので、ネットでいろいろ探していたんですよ。そんなときに見つけたのがココ。飛び込みでお邪魔して、作業をお願いしたらすごくしっかりやってくれるから気に入ったんです。社長もノリが良くて面白いし」(ワカさん)


以来、時々顔を出しながら徐々に仲良くなっていったという。また、自分ではできない整備に関しては、『MT.G』を友人に紹介するなどして交流を深めていった。今回バンライフビルダーをスムーズに始められたのも、整備工場を間借りできる信頼関係があったからこそ。今では、ルーフトップに取り付けるテントの国内代理店を共同で運営するほどになっている。

取材時は椅子や計器などもすべて取り除かれ、ほぼスケルトン状態。ここから窓枠のパッキングを取り替えたり、外側表面に高性能な断熱塗料を塗布するといった補修もおこなっていく。おしゃれな見た目だけでなく、耐久性や使い勝手といった細かい部分もしっかり考えられているのはシエルブルーらしさだ。また、キャンプファニチャー作りと同じく、アネゴさんも一緒に作業をおこなう。

男性目線と女性目線のほどよいバランス

「“これやっといて”のイメージがわかるんで、やりやすいですよ。また、お互い趣味が似ているので、意見がぶつかるということもないです」(アネゴさん)

「結婚して20年、これまでずっと一緒に作り上げてこれたのは本当にありがたいと思っています。シエルブルーのブランディングは、アネゴありき。彼女のアイデアを僕が具現化していることが多いんです。セレクトショップをやっていたときは男性向け。でも、男の人は流行りが終わるとパッといなくなる。その点、女性は一度気に入ったブランドがあると一生使ってくれる。だから、シエルブルーは女性目線を大事にしているんです」(ワカさん)

センスは共通しながらも、男性的な感覚と女性的な感覚がうまくミックスされている点はシエルブルーの強みのひとつ。また、彼らが子どもを持つ親であるという点も幅広い層に人気の理由ともいえる。

「バンライフに関しても、安全で快適という部分はすごく考えているんです」(アネゴさん)

「昔、アメ車を自分目線でいじっていた頃は、“かっこいい!”とよく言われましたけど、最近はもうないですね。その代わり、“おしゃれだね”と言われることが増えました」(ワカさん)

仕事をし過ぎて精神的に辛くなったことも

そんな彼らの一般的な1日は、6時に起床して7時に子どもを送り出し、9時頃まで自宅オフィスで事務作業。10時頃に『MT.G』に到着すると、そこからバンライフビルダーとしての作業を開始。夕方にアネゴさんは帰宅し、ワカさんは21時頃に家に戻る。その後、25時頃までファニチャーの製作や媒体から依頼された執筆や記事の校正をおこなっている。

「テーブルやチェアがいつも売り切れているから、シエルブルーはもうアウトドアファニチャーをやめたと思われているんです。でも、コツコツと作りながら年に一度は販売できればと思っています。とはいえ、昨年10月に60脚発売したら1日で完売してしまって。本当にありがたいのですが、今はバンライフビルダーがメインという感じなんです」

外注することなく、すべてを夫婦で作り上げているだけに、何事にも限界というものが生まれる。自営業は忙しくなると自分で抱え込むしかなくなり、気づくと余裕のない生活に陥りがちな負の側面もあるのだ。

「そこは自分でバランスを取っていくしかない。僕も一昨年くらいに自分の時間が取れなさ過ぎて、精神が半分くらい病んじゃって、周りからも心配されました。これはダメだと思って、仕事を調整するようにしたんです。でも、相変わらずバタバタしてますけどね (笑)」

好きを仕事にすることの楽しさと難しさ。次回はそこをうまく乗り切るテクニックにスポットを当てていく。