大好きなマウンテンバイクで野山を駆け回る。いつしかそれが仕事になった/東京裏山ベース 神野賢二

東京の都心から約 1 時間半、JR武蔵五日市駅の駅前にある、外遊び系アクティビティの拠点『東京裏山ベース』。カフェと併設して、シャワールームやロッカーもあり、週末にはアウトドア遊びに向かう多くの人が訪れる。この場所を立ち上げたのが神野賢二さん、通称ジンケンさん。マウンテンバイク好きが高じて始めた田舎暮らしが、思わぬ展開を見せたようで……。

楽しいから人を誘う、ツアーガイドとしての芽生え

東京の西、JR武蔵五日市線の終点の駅前にあるお店『東京裏山ベース』。この場所を訪れると、東京の裏山とはうまいことを言ったものだと納得してしまう。駅からちょっと行けば、トレイルランニングやマウンテンバイク (以下、MTB)にうってつけの野山があり、鮎も泳ぐ清流の秋川が流れ、キャンプサイトもある。まさに都心からもすぐにアクセスできる“裏山”なのだ。
 
そんな環境にある『東京裏山ベース』を立ち上げたジンケンさんは、今に至るこれまでの道のりをこう振り返る。

「行きがかり上こうなってますけど、最初から特別なスキルがあったわけじゃないんです。“好き”の延長でずっとやってきたらこうなったというか。こっちに移住したのも、学生の頃からここが好きでよく来ていて、色々なタイミングが重なり、奥さんと話して引っ越すことになりました」

ジンケンさんは、瀬戸内海を望む愛媛県新居浜市の出身。野山やきれいな川があり、環境的には武蔵五日市とも似ている自然豊かな土地で育った。少年時代のある時、MTB と出会い、コツコツとお金を貯めて中学2年生の時に最初の一台を手にする。以来、MTBへの愛情は今も変わらない。

地元は好きだったが、東京への憧れもあり、大学進学のために上京。東京の郊外、国立市の一橋大学へ入学したこともあり、MTBに乗ろうと入学早々から国立からのアクセスも良い武蔵五日市へ通うようになった。

「しょっちゅう来ては、地図を片手に林道やトレイルを探して走り回ってました。だから、この場所とはかれこれ20数年の付き合いですね。僕はすぐに『楽しいから一緒にやろう!』と人を誘うタイプなのでサークルを作って仲間を連れてきていました。今、MTB やトレランのガイドもやっているわけですから、考えてみれば自分が楽しいと思うことをガイドするのは天職だったんですね(笑)」

結婚、そして「東京の田舎」へ

大学卒業後、ジンケンさんは大学院へ進み2年間の修士課程を終える。
「その後、何を血迷ったかさらに博士課程に進むんですよ。そのまま、30歳を過ぎても大学院生でした。大学院では、労働社会学という、若い世代の仕事についての研究をしていました。ただ、学費も稼がないといけなかったので、フィールドワークを兼ねて都心でメッセンジャーを始めました。メッセンジャーというのは自転車で急ぎの荷物を配達する仕事で、当時から個性豊かな若者たちがたくさん働いていたんです」

メッセンジャーとして働きながら大学院へ通っていたが、博士課程も終わりが近づき、その後の生き方・働き方を考えなければいけないタイミングが来た。長く同居し事実婚だった妻と入籍したのもその頃だった。

「その時期にちょうど、人生がいろいろと動いたというか、今考えれば、その頃が転機でした」

将来の働き方のイメージもその頃には変わり始めていた。
「当初は大学教員の正規職を目指していて、ずっと研究者として生きていくキャリアを思い描いていたはずなんですが、次第に研究室にこもって地道に論文を書くことに耐えられなくなってきて。社会学を研究する身としてはダメなことですが、調査する側ではなくて、自分自身がアクターとして可能性のある働き方を実践したいと思ってしまったんですね。もともと、面白いと思ったことは自分でやってみないと気が済まない性分なので、大学の中にとどまって観察者・研究者として生きるのは向いていなかったんだと思います」

そして、それまで 2 人で住んでいた吉祥寺から、MTB遊びで通い慣れた武蔵五日市に移り住むことを決断。東京出身で都会育ちの奥さんも自然のそばでの生活を望んでいて移住には積極的で、むしろ背中を押してくれたという。引越しに伴ってメッセンジャーも辞め、新しい生活を作っていくことになる。

「幸い大学の非常勤講師の働き口があり、1、2 年は生活できそうでした。実はその他にも、吉祥寺にいた頃から、マウンテンバイクのマニアックな用品やパーツを海外から輸入して販売するネットショップをやっていたんです。武蔵五日市なら家賃も 7、8 万円で庭付きの戸建てが借りられるので、ネットショップの倉庫にも困らないし、非常勤講師の給料と合わせたら当面は生活できると思いました」

好きを仕事にしようとした、ある人のひと言

非常勤講師として働きながら、ついにMTBで走って遊ぶのに理想の住環境を得た。そこでジンケンさんは、当時、手に入れたばかりの iPhone4 で武蔵五日市の美しい景色の中を MTB で走り回る動画をセルフィーで撮影してはブログにアップしていった。

「これが意外に反響があり、知り合いから『連れていって!』と言われることが多くて、実際に友人たちを五日市に呼んで案内するようになりました。そしたらある人が、『こんな楽しいこと、お金を払ってもやりたい人はいるよ』とポロッと口にしたんです」

ちょうど武蔵五日市を拠点に何かできないか模索していた時期であり、元来のノリの良さと楽天的な発想で、「確かにそうかもしれない、行けるかも!」と思い、『東京裏山ベース』の前身となる『裏山ライドTokyo』として、MTBのガイドツアーを始める。移住して2年目のことだった。

最初の3年間は、現在のように店舗を構えることはなく、待ち合わせ場所の目印と、レンタル用のMTBを運ぶために購入したキャンピングカーを拠点にしてMTBツアーをおこなっていた。

「最初は自分自身が自転車歴が長いこともあって、マニアックな人に対応しなければというプレッシャーがありました。そういう方も来てくださいますが、実際には都心からアクセスしやすいこともあり、MTBは乗ったことないけど興味があるとか、寄り道して景色のいい場所に案内すると喜んでくれる人がたくさんいました。そこで 段々とMTBツアーでありながら、ハイキングしたり、川へ飛び込んだり、バーベキューしたりと、この場所全体で楽しい体験を組み合わせるようなガイドツアーにシフトしていきました」

そして2016年、武蔵五日市駅前に『東京裏山ベース』という新たな拠点を得て、いよいよ好きをスキルにした仕事も本格化していったのだった。

自分が好きで楽しいと思うことを他の人にも伝えたい。そんな人としての純粋な発想から新たな道を見つけてきたジンケンさん。次回は、さらに広がりを見せる現在の仕事内容について紹介していく。