“やりたくない”と言えた方が健全、建築テック系ベンチャーの人生観/VUILD 秋吉浩気

「やりたくないこと」をできるだけ排除することで、ストレスの少ない働き方が確立する。建築テック系ベンチャー「VUILD(ヴィルド)」の代表取締役・秋吉浩気さんに自身の仕事観について伺った。

テック系ベンチャーらしい柔軟な働き方を採用

川崎にあるビルの一階。VUILDの工房では、プロトタイピング用途を主としたShopBotが2台設置されている。秋吉さんはその近くに住まいを構え、徒歩や自転車で事務所まで出向く。午前中は打ち合わせが多いそうだ。

「朝の通勤電車に乗るのはつらいので、できるかぎりやりたくない。打ち合わせなども、どうしても現場を見なくてはいけないとき以外は、なるべくオンラインにしてもらって、その分作業時間を増やせるように努めています」

仕事が成り立てばなんでも良い、と秋吉さんは言う。プロジェクトのメンバーとのベースコミュニケーションは、大体Slackなどのオンラインチャットを用いる。そのため、実際に全員が顔を合わせて話すことは少ない。しかし、昼飯だけは出社しているメンバーで集まって食べるというルールがある。

「ご飯を一緒に食べると”家族”になりますから。また、出社するメンバーが固定されていないので、毎日新鮮なんです」

VUILDでは、プロジェクトに関わるメンバーは50人ほどだが、社員は10人未満。人脈を横つなぎする人材は社員として囲う一方、プロフェッショナルは業務委託で雇う。自立分散型の組織を目指しているといい、予算は全員に開示し、確保したい利益をプロジェクトごとに明示して発注する。なお、副業も制限していない。

「業務委託の面白いところは、やりたくないなら、やりたくないと言ってもらえること。ある意味健全な働き方だと思っています。自分らしくいられる人を増やすことが、良い社会・働き方につながるのではないでしょうか。私自身がそういう社会を実現したいので、会社でそういうトライアルをしているんです」

情報の共有は意識的に行う

秋吉さんの1日のスケジュールは日によって様々だ。ある日には大学で授業をしてから、外部のエンジニアとの打ち合わせを数件こなす。またある日には、地方へ出張に行き、一日中現場で人と会うこともある。代表取締役らしく、会社の「顔」としての仕事が多い。

一方で、外に出て刺激を得る機会が少ないメンバーには、情報共有も欠かさない。

「同じ場所に留まるのってかなり危険だと思っています。私は出張に出ることが多いけれど、ほかのメンバーは必ずしもそうではない。文脈を共有したり、視点を共有するために情報共有は意識的に行っています」

VUILDでは、「OPEN VUILD」という名称で社内向けの研修会を不定期で開催している。各回異なるゲストを呼んでプレゼンしてもらい、それぞれのテーマについて「なぜそれに注目すべきなのか」語ってもらう取り組みだ。内容は、ライターに記事を書き起こしてもらい、VUILDのWebサイトで公開されている。

秋吉さんにとって仕事のやりがいとは

極力無駄を省くスタイルが印象的な秋吉さんだが、仕事で感じる根本的な楽しさは、やはり「ものづくり」にあるようだ。

「学生時代には頑張っても模型しか作れなかったようなものが、目の前ですぐ形になっていって、顧客にハイっと渡せる。また、個人だと家具だけでしたが、メンバーが増えたことで、建築や住宅など大規模のものにも携われるようになりました。自分の頭にあるものが、高解像度で出来上がることがとても面白いです」

また、前回も紹介したように、VUILDの活動は「ものづくり」だけではない。革命的なツールを普及させる側面においても、やりがいがあるという。

「EMARFを広げていくことで、より多くの人にこうした体験をしてもらえるのも嬉しいです。全く興味がなかった人にも、面白いって感じてもらえますから」

もちろん、新しいことにチャレンジするのは、一長一短に成せる簡単なことではない。VUILDとして失敗を経験したこともあるし、それを乗り越えるための努力も必要だ。

「例えば、椅子の構造評価をするとして、木材では繊維方向の差が出てきてしまいます。あってはいけないことだけど、納品して失敗したこともありました。でも、失敗できるのは、ベンチャーならではの武器とも言えます。今しかできない、自分たちじゃないとできないことだから、そこにトライしなくてはなりません。失敗を恐れず、新しいことに挑戦します」

実は、秋吉さんは博士課程で研究もしている。研究者・設計者・起業家を兼ねる多彩ぶりだ。業務を通じて発見した課題は、その研究にも活かされる。基礎研究から社会実装まで一貫して挑戦できるやりがいは大きいだろう。また、VUILDと企業との業務提携において、研究開発の割合も大きく、同社にとって重要な取り組みにもなっている。

「例えば、アクリルなら均一だけど、木材は繊維が曲がっていたり、その上で奥行きがあったりします。木目をちゃんと読んで、どういう強度のもので、接合が必要か、どういうレイアウトが必要かを判断できたら良い。こういうことを研究段階で取り組んでいます。いまは市場で誰にも必要とされていない分野ですけれど、5~10年経てば世界中がやり出すはずです」

VUILD、そして秋吉さんの今後の夢

秋吉さんとして、VUILDとして、これから注力していきたいことは大きく2つある。ひとつは、EMARFを普及させ、ものづくりの市場に新しい風を巻き起こすことだ。

「EMARFが立ち上がったばかりなので、“デジタルを通して、自分で考えたものを実際につくることを体験してもらう”――そういうムーブメントを体験してもらって、そんな世界観があることに気づいてもらいたい。まずはここに注力していきます」

もうひとつは、EMARFの海外進出である。狙っているのは、森林国家ではない島国だ。

「ShopBotは、グローバルの視点で考えると、大抵どこの国に行っても存在します。デジタルデータと機械さえあれば使えるインフラなので、日本でマーケットを広げるよりも、海外へ展開するのも一つの手。シンガポールとハワイでは既にプロジェクトを進めています」

ものづくりの体験を豊かにし、木材の流通概念を変え得るVUILDの取り組み。その根本には、「やりたくないこと、無駄なことを極力省くことで健全な姿にする」といった秋吉さんの人生観があるのかもしれない。