木工の可能性を解放せよ。オーダーメイドとDIYの間を埋める、建築テック系スタートアップ/VUILD 秋吉浩気

デジタル刺繍ミシンを使う感覚で、素人が自分でデザインしたベッドを作れたっていいじゃないか――。こう語るのは、建築テック系スタートアップ「VUILD(ヴィルド)」の代表取締役・秋吉浩気さんだ。

近年、木材業界で注目を浴びるデジタル製造加工機がある。その名は「ShopBot(ショップボット)」。1台500万円ほどで購入できる米国産のCNCミリングマシンであり、設計データを入力し、必要な木材をセットするだけで、家具や建築に必要なパーツが切り抜かれる。要は、3Dプリンターやレーザーカッターに近い感覚で、木材を整形できる機械だ。VUILDは複数のオーナー向けに、このShopBotを全国38箇所(2019年6月現在)へ導入してきた。

一般的な機材では、ラインを整えて角材を大量に加工することで利益を生む。そのため1~5個程度の少数生産は、ラインを作れないがゆえ実現できない。一方、板材を使うShopBotの生産では、ラインを整える必要がなく非常に小規模な生産にも対応できる。

「高度成長期ではないのだから、大量のものを大量に送るのではだめ。マグロなら大トロは大トロで、中トロは中トロで切り分けるように、木材も加工していく必要があります。一本の木の価値をどれだけ高められるのかが重要。ShopBotのような技術を提供することで、森林資源を活用する人にとって健全な循環を作りたいです」

しかし、ShopBot自体の歴史は1990年代から始まっており、加工機の技術としては実はさほど目新しいものではない。VUILDが注目したのは、この加工機をデザイン知識のない素人でも扱いやすくするUXだった。同社は2019年4月に「EMARF(エマーフ)」というサービスをローンチし、家具づくりの体験に革命を起こそうとしている。

このEMARFを使うと、素人でも簡単にオーダーメイド家具を作ることができる。オンラインサイトから家具のデザインテンプレートを選び、設置場所や目的に合わせて細部をカスタマイズ。使用する木材や、出力する工房を選択すると、家具のパーツがShopBotで出力される。面白いのは、注文者も工房に足を運び、製作に関われることだ。

4月のローンチ時点で出力可能な工房は、東京都千代田区、岩手県花巻市、愛知県豊川市、熊本県阿蘇郡、神奈川県川崎市の5箇所。その後は、順次拠点を増やしている。マイルストーンとして、2020年に100箇所、2023年に1000箇所を掲げる。

VUILDの代表・秋吉さんとはどんな人物なのか

VUILD株式会社の代表取締役社長・秋吉浩気さんは1988年に生まれ。5歳までを大阪で、その後は東京の目黒区で幼少期を過ごした。もともと工作が好きな少年だったが、同氏が通った目黒区の宮前小学校もものづくりに興味を持つきっかけの一つだ。

「廊下と教室の境目がなくて、そのスペースに何を作ってもよかったんですよ。毎日ちょっとずつ集めた牛乳パックを持ってきて、どんどん付け足していってました。好き放題やらせてもらっていましたね」

その後、中高では私立の進学校に通い、建築とは縁のない生活を送る。進路に悩み浪人するものの、そこで「建築を学びたい」と決心し、芝浦工業大学へ入学する。

「建築学科では、教授が建築作家でもあるんです。それぞれ色があるので、だれの作品が好きかをリストアップして、興味をもった先生のところで学びたいと思って大学を選びました。普通の建築学科生は、3年目から設計をしたりするんですけれど、私は1年目から先生の事務所に出入りしていました」

在学中に言われたのが、いろんな建築物を見て、本を読みなさいということ。教えを守り、本は毎日一冊読み、資金を稼ぎながら毎年ちょこちょこ海外に行って気になる建築を見ていたそうだ。

「たくさんの本を読みましたが、その時に読んだ『スモール・イズ・ビューティフル』という経済学の本がいまの事業の源泉になっています。小さな社会のなかでどうやって自治を実現していくのか――ポスト工業化以降の社会のあるべき姿についての考え方に共感しました。また、建築では、例えば近代建築の巨匠といわれるル・コルビュジエの作品などを見に行ってきました。好きな作家の作品を見るためにスイスの山奥で雪山を登ったこともありますよ」

なぜ「木」を選んだのか

建築学科では、ほとんどの学科はものづくりはせず、設計図面だけ引くことが多いそうだ。商業施設を自分ならどういう提案をするか、という訓練をする。大学院へ進んでもそれが続く。だからこそ、先端技術や素材に触れていない状況を打破すべく、秋吉さんは大学院へ進学するタイミングで、”ものづくり”を学びにデジタルファブリケーションの研究室へ進んだ。「木」に注目したのはこのときだ。

「3Dプリンタやレーザーカッターを市民工房として民間に提供している『ファブラボ』というのが世界各地にありまして、その運営者達が集まる『世界ファブラボ会議』に参加したんです。そこで海外の参加者に尋ねられたのが、”日本にはどんな木があるの?”だった。機械が一様に同じなので、彼らはそれぞれの地域性に興味を持っていて、材料と文化について当時から議論していたんです」

そこで改めて気がついたのが、日本は1/3が森林でできているということ。そこから日本独自の特徴や、材料を自分たちで調達できることの面白さに気づく。

「プラスチックは地球が何万年もかけて作った資源を吸い上げたもの。それに対して、木は人間のタイムスパンで資源を作ることができる。そこに興味をもって木に使い始めました」

大学院を卒業して起業家へ

ShopBotとの出会いは、先述のファブラボ会議にて開発者と知り合ったことが始まりだ。秋吉さんが率先してShopBotを導入して使用することになったが、使っているうちに自身以外にもニーズがあることに気づく。教授に「代理店をやったらどうか?」と冗談半分に言われ、本当に代理店を始めてしまったのだから驚きだ。

「実は、在学時にShopBotを自身の所属する慶応SFCと、ほかの大学にもShopBotを売って学費にしていました(笑)。研究発表もして学費も帰ってきたので、お釣りが出ましたよ。卒業後の一年目にも、蒲田でShopBot付き賃貸マンションを作りました。機械は買ってもらって、私が場所を運営することでコストを相殺。スモールスタートで始めたんです」

大学院を卒業してからは、本格的に機械販売と設計製作の受託の事業を始める。経営に関するエッセンスは、経営コンサルタントを営む父親から教わった。VUILD株式会社として法人化したのは、2017年11月のことで、本記事執筆時点で創業2年目となる。

「大学院生の時に、たまたま起業家のコミュニティへ人づてで紹介してもらって、今は株主になってもらっている投資家の孫 泰藏さんに知り合いました。いくつかのプロジェクトを進めて、”そろそろスタートアップ始めたら”と言われまして、会社を作って、そこに投資してもらったんです」

「EMARF」を通じて実現したい想い

VUILDでは、ShopBotを日本に38台導入した。EMARFはそのなかで生まれてきた。着目したのはデザインデータの扱いについてだった。

「もともと機械を扱っているようなリテラシーが高い人たちは、ShopBotの使い方をちょっと教えればすぐに使えるようになります。一方で、自治体や行政などが使う場合にはそうはいきません。VUILDがいないとエンジニアリングもできないでは困る。主に要求されるのは、デザインデータづくりとそれを加工データにすることなので、それをひとまとまりのパッケージにできればと考えました。また、デザインデータはそれぞれの工房でみんな持っていたので、そういうものをうまくシェアできたらと思ったんです」

EMARFができたことで、主婦でも、他分野の専門家でも、誰もが家具づくりにチャレンジしやすくなった。家具をデザインするのが、デザイナーである必要はない。数値を選んで、画面を操作し、材料をセットして、スタートボタンを押すだけでよい。

「生産者視点では、EMARFとShopBotを使って、木材における物流の考え方が変わると思っています。地域で生産した材木を、地域ベースで動かしやすくなるからです」

また、先述の通り、EMARFはオンラインで申し込むが、注文した人は工房に訪れて、実際に作業を行える。本格的なDIYはやりたくないけれど、こだわりの家具づくりをしてみたい人――従来の生産体系ではニーズに応えられなかった層を、EMARFはがっちり捉えた。

「一般向けには、オーダーメイドとDIYの間を埋めるものを作りたい。その上で工房に来てもらうのも実は重要です。例えば、注文した家具が届いたけれど、傷ついてしまうっていう人がいます。一緒につくると”木には傷がつくんだ”ってことが理解できるし、解決するには、角を面取りすればよいということが理解できるんです」

そういえば今まではなんとなく諦めていたけれど、自分の生活のフィットする理想の棚が欲しかった――。そう思い出したのは筆者だけではないだろう。次回はVUILDや秋吉さんの具体的な仕事内容について紹介する。