自分が感じた違和感をスルーしてはいけない。それがあなたを助ける「気づき」になる。プロ経営者が教える人生のヒント

違和感は直感であり、その感覚を忘れてはいけない。
その感覚こそが、最後は自身を助ける気づきになる。

自身の会社であるX-TANKコンサルティングを起ち上げて丸2年が経つ。液晶日の丸連合とも言われるディスプレイメーカー、ジャパンディスプレイの経営再建にも参画している。限られた時間の中で自分ができること、すべきことを必死にやっている日々だ。

私は、タイで生まれ育った。アメリカの大学を卒業し、一度はタイで働いたが、再渡米し、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得した。その後、アーンスト&ヤングコンサルティング、コカ・コーラ、デル、レノボ、アディダス、ソニーピクチャーズエンタテインメント、ハイアールと、毎回異業種でキャリアを築いてきた。

起業するまでの自分は、やりたいこと、進むべき道を考え出すと、ずっと違和感があった。これでいいのだろうか、という気持ちを持ちながらも、何十年もの間、日々の仕事に忙殺されて、気づかないふりをしてきたのかもしれなかった。

そして、40代半ば過ぎにして、心の中にあるモヤモヤが何かにようやく気付いた気がした。それは「違和感をないがしろにしてはいけない」ということ。

ハイアールとの契約を終了した後にじっくりと時間を取り、いろんなところに行った。激務で蝕まれた心身を癒し、自分を取り戻すためにも必要な時間だった。そしてたくさんのことに気がついた。古い知人らとの再会や新しい出会いを通じて。

幼い頃からの友。タイでインターナショナルスクールに通っていた頃、一緒に野球をしていた幼馴染みだ。彼は名門タフツ大学を卒業、さらにハーバードビジネススクールに入学している。非常に裕福な家に育ち、とても優秀な男だ。

だが、ハーバード在学中にアジア通貨危機が起こり、父親の会社が倒産してしまう。父親は蒸発し、裕福な生活から一変、1日4ドルで生活をしながら、なんとかハーバードを卒業することになる。その後、シリコンバレーでの起業、のちにウォール街でヘッジファンド会社を経営するに至る。1日4ドルから、自力でミリオネアになってみせた。

ところが、彼はこれで終わらない。自分の中の違和感を追求するために、すべてを手放す。そして彼は答えを見つけたようだ。起ち上げから6年、今アジアでもっとも成長していると言われているスポーツエンタテインメント企業、ONE Championshipを総帥として率いている。私も日本進出の為の市場調査を短期間だけ手伝った。

ソニーピクチャーズ エンタテインメント時代の上司であり友人もそうだ。頭脳明晰で快活な人物だが、私が辞めた後、構造改革でリストラにあった。その後1年半も求職活動を余儀なくされた間、一人で山小屋に籠り、たくさんの時間をかけて自分に向き合ったという。

古い友人を訪ねて全米を旅したそうだ。私がハイアール退社直後にアメリカを旅していると、わざわざ空港まで出迎えに来てくれた。彼の自宅にある暖炉の前で、朝まで語り明かした時に聞いた話だ。

彼は一旦は異業種で働いたが、やはりエンタテインメント業界が好きだと気づき、ダメ元でいろんな人と会いまくったと聞いた。今ではワーナーブラザーズの本社上級幹部となる。

南アフリカで弁護士だったビジネススクール時代の友人。治安が酷く身の危険さえ感じた彼は、夫婦で祖国を棄てて渡米した。だが、弁護士資格は他国では無用の長物。いちから新しい人生を賭けてビジネススクールで学んだ。卒業後には血のにじむような努力を重ねて、生活のため、家族のため、自分の夢のために頑張りつづけ、大手保険会社の上級幹部になった。

今年の訪米中にまた会う機会があったが、退職をして起業準備中だった。40代を終える前に膨らみ続けた違和感に立ち向かう無職の彼が、とてもカッコ良く見えた。

新たな友人となった20代、30代の若きベンチャー企業経営者ら。リストラされて「僕は別にやりたいことなんかないんですよ」と言いながら、やむなく起業した50代の個人事業主。プロ格闘技選手を目指し、昼間は生鮮食品売り場でキャベツの選定をしながら、夜はトレーニングに励む好青年。皆、不安を抱えながらも、それでも「きっとやるべきことがある」と語る。

皆、様々な立場ではあるが、それぞれが夢に向かって、あるいは生活のために、懸命に働く姿は眩しいものだ。そして気づいたことがある。彼等は、自身の人生に違和感を覚えたときに、舵を切った人たちだ。幼馴染の友人は大富豪になりながら、「夢を叶えたい」とすべてを棄てた。なにか、違和感があったのだろう。いや、きっと違和感を呑みこまなかったのだろうなと思う。

違和感は直感でもあり、肌感覚でもある。何かが違う、何かしっくりこない、いやだ。

そういう直感を妥協せずに信じて、「違ってもいいんだ」を意識することが大切だ。それが発想力と行動力につながる。それが差異力になる。

今自分の生活に違和感を覚えている全ての人たちに伝えたい。自分が感じた違和感を忘れてはいけない。その感覚こそが、あなたを助ける「気づき」になるのだから。

伊藤嘉明(いとうよしあき)/X-TANK CEO。世界のヘッドハンターが動向を注視するプロ経営者。ジャパンディスプレイのCMOも兼任。著書『どんな業界でも記録的な成果を出す人の仕事力』(東洋経済新報社/1620円)など。

『デジモノステーション』2018年12月号より抜粋。